自分から心を開いて、入り込んで
となみ野農業協同組合元女性部長
中西 美代さん
若くして大阪から砺波に嫁いだ中西さん。
県や市のJA女性部や地域の役員を歴任し、今や地域のゴッドマザー的な存在です。
数年前、2世帯同居のためにリフォームしたお家で、お話をうかがいました。
中西さんが代表を務めていた、JAとなみ野女性部では、健康で明るく豊かな地域社会を築くため、さまざまな活動が行われています。
良質な「食生活」づくりや「地産地消」運動、子どもたちの食育教育など、「食」に関することばかりではなく、心の豊かさや女性の地位向上のための研修会や交流会も行っています。
「今は『地産地消』とさかんに言うけど、昔は『一里以内のものを食べよ』(一里は約4km)と教わりました。言い方は変わっても、農業をしている人たちは、昔から地元のものを地元で食べようって言っとったんやちゃ。」住んでいるところの『四里以内で食をとれ』という言葉もありますが、中西さんの若い頃は、もっと身近なところで食材を調達していたようです。
子どもたちの食育教育では、田植え、収穫体験、その収穫米を使って、毎年11月の農業祭りで親子の寿司づくり教室を行っているそう。育て、収穫し、調理をして、いただくまでを一環して体験してもらっているとのこと。
「去年は『ずいき』を入れたけど、今年は、地元の養豚場で試作したオリジナルのウィンナーも入れてお寿司にするのよ。」昔から伝わる郷土料理だけでなく、地物を使った商品開発や新しい食の提案も行っているそうです。
● JAとなみ野(外部リンク)
「今、力を入れているのは『おHIROME隊』の活動です。」 身近な講師を招き、年に5、6回実施されている実技研修は「年齢の制限なし。JAの会員さんじゃなくても参加できるようにしています。だって『おひろめ』してもらいたいから(笑)。おばあちゃんたちから、小さなお子さんのいるママさんたちまで、いろんな人たちが参加してくれますよ。」
スカーフの巻き方、アロマ教室、寄せ植え、漬け物づくり、塩糀・醤油糀づくり、ウィンナーづくり、絵手紙教室、冠婚葬祭の礼儀作法教室…と、実に多彩。流行や時代も捉えながら企画される研修会は、人気のものだと150名ほどの講座になるそうです。 「好評だったのは、葬祭の礼儀作法ね。どこで礼をするか、ほんのちょっとのことなんだけど『今さら聞けない』ことってあるでしょう。地域によっても結構違うしね。香典の書き方や中包みの扱い方など、知っておくと、いざという時も堂々とできるからね。何年も連続してやった人気講座でした。人の話を聞くことで、自信になるのよね。」
また、5年前からは、グリーンツーリズムにも力を入れているそうで、小学生を対象に、農作業や地元の野菜を使った料理体験などを実施しているそうです。
「農家へのホームステイですね。嫌いな野菜も食べられるようになった子もいるんですよ。今までは、数軒の家で受け入れをしていたのですが、今回は初めて『佐々木邸』を使わせてもらいました。」
今ではすっかり富山弁が板についている中西さんですが、もともとは大阪の中心部・浪速区の出身。約50年前のことですから、都会と田舎の生活や考え方は、現代とは比べ物にならないほど、差があったことでしょう。
<言葉が違う>
「20歳そこそこで、砺波に来たのよ。当時は全てがカルチャーショックでしたね。まず、品物の名前が違う。こちらでは『ももひき(股引)』というけれど、大阪では『パッチ』だしね。普段の生活の中で使う言葉が違うから、戸惑いましたよ。」
<近所づきあいが違う>
「家から大きな往来までの間は、電信柱にでも頭を下げなさい」と、大姑さんに教えられたそうです。「人が密集している都会暮らしでは、隣近所の人くらいにしか挨拶をしないし、今は車で出かけてしまうからそういうのはなくなったけれど、とにかく会った人には全て頭を下げてたわね(笑)。」
<食生活が違う>
「来たばかりのときは、お正月のお雑煮が苦手でね(笑)。」料理に関しては、相当の違いがあったようです。毎月の親族の命日には、精進料理をつくっていたそうで「出汁に煮干しを入れるのもダメだったし、卵も食べちゃいけなかった」そう。
当時の砺波の食事は「ごはんとお汁と漬け物、あと一品か二品というのが一般的。みんな米や野菜を作っているからね。今では、テレビや本で見たものがすぐ買えるし、毎日スーパーに買い物に行ってもおかしいという人はいないけど、昔の砺波では『買い物に行く』ことが珍しかったのよ(笑)。大阪では、市場に毎日買い物に行っていたのにね。」 都会と田舎、生活が180度変わるという経験から、砺波のいいところも、苦手なところも、少しずつ受け入れて、今の便利さもよく理解しながら、分かっていらっしゃる中西さん。
「砺波の人は優しくて、奥ゆかしい。実は、智恵も力も持っているけれど、自分から言う人はあまりいないから、こちらから自分から心を開いて入り込んでいかないとね。」でも、一方的に言うことを聞いてばかりでは疲れてしまうでしょうから、自分のスタイルに少しずつ合わせながら、がんばりすぎないことも大切だと強調していらっしゃいました。
向こうからは積極的にはコミュニケーションがなくても、こちらから遠慮せずに聞けば、何でも教えてくれるのが砺波の人のいいところ。そして、一生懸命やっていれば、ちゃんと見ていてさりげなく助けてくれる人が多いそうです。
「都会は『知らん』て言われたら終わりだけど、砺波は、ちゃんと見てくれているんです。人との接し方や風習の違いで困るのは、本当に最初だけ。素直に、腹を据えてとけ込もうとしていれば、相手にも必ず伝わると思うの。」
全く環境の違うところから、地域にとけ込み、今や地域のゴッドマザー的な存在になられた中西さん。「どんな話でも聞いてあげるよ。困った困ったと言わないで、さらけ出して相談するのが大事やよ。できることはしてあげたい。」と、力強く話してくださいました。