温泉を農業に取り入れて、新しいおいしさを生み出す
温泉水使い野菜栽培
柴田 泰利さん
静岡県にある大学を卒業後、
会計事務所での半年間の研修を経て、
農業法人「泰栄農研」に入社した柴田泰利さん。
選りすぐりの地域産品
「となみブランド」の認定商品である
「庄川おんせん野菜」の栽培に勤しむ
若手の農業従事者です。
今、柴田さんは、お父様が代表取締役社長を務める「有限会社泰栄農研」で働いています。学生時代は、いずれ実家に戻ることを心に留めながらも、「自分の家を自分で設計したい」という夢を抱いて、静岡県の大学に進学。木材物理を専攻し、建築関係の基礎データを研究していました。しかし、次第に「農業は1年に1回しかできないから、早く帰った方がいい」と思うようになり、土壌学など家業に役立ちそうな学問を学び、Uターンしました。
「静岡もいいところなのですが、車の渋滞がかなり多いので、住みづらいなと思っていました。砺波は渋滞がなく、隣家との距離があるため気を遣わなくていいところが住みやすいです。また、風景が昔から変わらないところも落ち着きます」。
故郷というものは、1度遠くへ離れてみるからこそ、改めて分かる良さがあるのでしょう。
「泰栄農研」のある庄川地区は、庄川清流温泉が豊富に湧き出る地域です。柴田さんは、その温泉を使って作物を栽培する「庄川おんせん野菜」に、2013年から取り組んでいます。きっかけは、トマトのポット栽培でした。
「土には鉄やマグネシウム、亜鉛、マンガンなどが微量に含まれていますが、ポット栽培にはそのような栄養がほとんど含まれていません。野菜に補給しなければいけない栄養成分表を見た時に、庄川清流温泉を使えばいいのではと思ったんです」。
確信はないものの、己のひらめきに従い、さっそく庄川清流温泉を使って栽培を始めることにしました。
「庄川清流温泉にはナトリウムも多く含まれています。多量のナトリウムは作物にあまり良くないので、1週間ほどで枯れるのかなと思っていましたが、意外と普通に育ちました。他の作物にも与えましたが、1番味の違いが分かるのがトマト。塩分が入ることで甘くなるんです」。
野菜に必要な栄養を温泉で補給した「庄川おんせん野菜」の中でも、特にトマトとトウモロコシは、食べたら味の違いが確実に分かります。取材の際にトウモロコシを試食させてもらいましたが、あまりの甘さにビックリ。こんなにおいしいトウモロコシを食べたのは初めてでした。生でも食べられるそうです。
柴田さんは、庄川清流温泉をはじめとする全国各地の温泉地の成分表を見せてくれました。栽培では実際にいい結果を出せてはいるものの、庄川清流温泉の良さをより明確に把握するために、4〜5人の仲間とともに成分表を作ったそうです。
「庄川清流温泉は、ナトリウムだけでなく、カルシウム、マグネシウムなど、いろいろな成分がバランス良く、かつ豊富に含まれた希少な温泉であることが分かりました。カルシウムやマグネシウムも、野菜の健やかな生育に欠かせません。成分表づくりをしたことで、庄川清流温泉が野菜づくりに最適な温泉だということがよく分かりました」。
実に研究熱心な柴田さん。成分表の作成以降も、温泉の濃度を変えて栽培をするなど、おいしい野菜づくりを追求し続けています。
柴田さんが始めた「庄川おんせん野菜」は、選りすぐりの地域産品「となみブランド」に認定されています。これからは、「庄川おんせん野菜」のロゴマークを作り、全国に広めていきます。その活動を先頭に立って進めるのも、柴田さんです。
「庄川の道の駅に作物を出荷されている農家の方々に協力をいただいて、庄川おんせん野菜の部会を作ってもらいました。いろいろな人にロゴマークを使ってもらって、みんなで庄川おんせん野菜を盛り上げていきたいと思っています」。
富山県では、農林漁業者の収益性の向上を図るため、6次産業化の取り組みを支援しています。その事業のひとつとして新たに設けられたのが、「農観連携事業」。農林漁業者と観光業者が連携して、観光客等に向けたメニューやサービスの開発等による新たな需要開拓の取り組みを支援するというものです。思い立ったら即実行に移す柴田さん。今年からこの事業に取り組む予定です。
「旅館と提携し、宿泊者向けのオプションメニューとして、庄川の道の駅でトウモロコシの収穫体験などのサービスを販売しました。いきなり海外の方が来られて驚きましたが、喜ばれていることが分かりましたね」。
砺波には、地域行事に積極的に参加するという風習があります。柴田さんが住む庄川地区には、全国でも珍しい「流木乗り選手権大会」をはじめ、水にまつわる多彩なイベントが開催される「庄川水まつり」や、勇壮な夜高あんどんのぶつかり合いや花火などを楽しめる「庄川観光祭」などのお祭りがあり、柴田さんは今年「庄川水まつり」の実行委員長を務めました。
「地元の行事は大変な面もありますが、町内の人と仲良くなれるところがいいところ。庄川地区も、年齢に関係なく結束力が強いですよ。移住を考えられている方は、1度実際にお越しになって、まちの雰囲気を感じてもらえるといいと思います」。
「庄川水まつり」のTシャツ姿で祭りについて話してくれた柴田さんからは、砺波への熱い思いが伝わってきました。現在は移住ツアーや体験ハウスも実施しているので、移住をお考えの方はお気軽に砺波へ。その際は、庄川おんせん野菜もぜひ味わってみてください。
プロフィール
柴田泰利 (しばた・やすとし)
1983年、砺波市庄川生まれ。2006年、国立静岡大学農学部卒業後、Uターン。会計事務所で研修を経た後、同年10月に泰栄農研に入社。2013年5月から、庄川おんせん野菜プロジェクト開始。2015年3月、取締役就任。小学校から高校までのスキーの経験を活かして、スキー教室の先生も務めている。2015年3月、全国農業者会議プロジェクト発表 優秀賞受賞。